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ブランドを守る知財戦略

商標登録だけでブランドは守れません。不正競争防止法、著作権、意匠権…複数の法律を組み合わせた「知財ミックス」で、あなたのビジネスを多角的に保護しましょう。

Unfair Competition

不正競争防止法 — 商標登録がなくても名前を守れる場合

「商標登録をしていなければ、名前を守る手段はないのか?」――そうとも限りません。不正競争防止法は、商標登録の有無にかかわらず、一定の条件を満たせばブランドを保護する法律です。

ネーミング・ブランドに関わる主な不正競争行為

周知表示混同惹起行為(2条1項1号)

需要者の間に広く認識されている商品名・店名・ロゴなどと同一・類似の表示を使い、混同を生じさせる行為。商標登録がなくても、「地域でよく知られている」だけで保護される可能性があります。

刑事罰あり:5年以下の懲役又は500万円以下の罰金

著名表示冒用行為(2条1項2号)

著名な商品名・ロゴなどを無断で使用する行為。混同がなくても(全く異なる分野で使った場合でも)差止め・損害賠償が可能です。「ただ乗り(フリーライド)」を許さない制度です。

商品形態模倣行為(2条1項3号)— デッドコピー禁止

他人の商品のデザイン・形状をそのままコピー(デッドコピー)した商品を販売する行為。発売から3年間保護されます。商品パッケージのデザインもこの保護の対象になりえます。

ただし、不正競争防止法は「最終手段」:周知性・著名性の立証は容易ではなく、商品形態模倣は3年の時限保護です。やはり基本は商標登録。不正競争防止法は、商標登録がカバーしきれない部分を補う「もう1つの壁」として位置づけましょう。
Case — 堂島ロールの教訓

モンシュシュ事件(大阪地裁平成23年6月30日判決・大阪高裁平成25年3月7日判決)

大阪 洋菓子メーカー 商号変更時の調査不足

「堂島ロール」で一世を風靡した大阪の洋菓子メーカーが、商号を「モンシュシュ」に変更した際に起きたトラブルです。

事件の概要

神戸の老舗洋菓子メーカー・ゴンチャロフ製菓は、「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」の商標を昭和56年(1981年)から保有していました。

一方、「堂島ロール」で急成長した被告会社は、2007年に商号を「モンシュシュ」に変更。店舗看板やパッケージにも「モンシュシュ」を大きく使用しました。

ところが、商号変更にあたって類似する商標の調査を行っていなかったのです。

裁判所の判断

大阪地裁は商標権侵害を認定し、約3560万円の損害賠償を命じました。控訴審の大阪高裁では賠償額が約5140万円に増額。「モンシュシュ」の名称使用の差止めも命じられ、被告は商号を「モンシェール」に変更して対応しました。

※ 本件は商標法に基づく商標権侵害事件であり、不正競争防止法は適用されていません。

約5140万円(大阪高裁認容額)
教訓:「堂島ロール」の知名度がいくら高くても、「モンシュシュ」という名称については先行商標が存在しました。商号変更やブランド名の決定時には、必ず先行商標の調査を行うべきです。調査をしていれば、容易にこの紛争は回避できました。
Case — 不正競争防止法による保護の実例

マリカー事件(知財高裁令和2年1月29日判決)

東京 レンタルカート事業 不正競争防止法2条1項1号・2号

東京都内でレンタルカート事業を展開していた会社が、任天堂の人気ゲーム「マリオカート」の略称「マリカー」を社名に使用し、さらにマリオ等のキャラクターのコスチュームを貸与して公道を走行させるサービスを提供していました。

裁判所の判断

知財高裁は、「マリカー」が任天堂の著名なゲーム「マリオカート」の略称として需要者の間に広く認識されていると認定。被告の行為は不正競争防止法2条1項2号(著名表示冒用行為)に該当すると判断しました。

損害賠償として約5000万円の支払いが命じられました。

約5000万円(損害賠償認容額)
教訓:不正競争防止法は、商標登録がなくても著名なブランドを保護します。他方で、この保護を受けるにはブランドの著名性・周知性が前提です。自社ブランドの保護は、まず商標登録で確保し、不正競争防止法は補完的な手段として位置づけるのが現実的です。
Generic Name Risk

登録商標が「普通の名前」になってしまうリスク

商標登録をしても、管理を怠ると権利を失うことがあります。

Case — 商標が普通名称化した事例

招福巻事件(大阪高裁平成22年1月22日判決)

大阪 食品 恵方巻の名称

寿司店「小鯛雀鮨鮨萬」は、「招福巻」の登録商標を保有していました。節分の恵方巻が全国に広まる中、大手スーパー・イオンが「十二単の招福巻」の名前で恵方巻を販売。商標権者は使用差止めと約2300万円の損害賠償を請求しました。

裁判所の判断

大阪高裁は、「招福巻」は恵方巻の普通名称に当たると判断。「招福」はもともと「福を招く」という意味の日本語であり、「巻」は巻き寿司の接尾語。遅くとも平成17年頃には全国のスーパーで広く使われていたと認定しました。

結果、商標権の効力が及ばないとして、商標権者の請求を全面的に棄却しました。

教訓:登録商標であっても、業界で広く使われて「普通の名前」になってしまうと、権利行使ができなくなります。商標権者は、無断使用に対して早期に権利行使し、自社商標であることを周知させる努力が必要です。
Case — 佐賀・鹿児島の教訓

坂元醸造「くろず(黒酢)」の一般名称化

鹿児島 食品メーカー 命名者が権利を取れなかった事例

鹿児島の坂元醸造は、1975年に天然米酢の壺造り酢を「くろず(黒酢)」と命名しました。熟成するほど色が黒くなるこの酢に、実にぴったりのネーミングです。

ところが、当時は知的財産に対する意識が十分でなく、「くろず」を商標出願しませんでした。その結果、「黒酢」は食品の一般名称として広まってしまい、坂元醸造が後から権利を取得しようとしても、もはや手遅れでした。

その後の対策

この「苦い経験」を踏まえ、坂元醸造は現在では知財保護を最重要視。独特な壺の形や壺畑の風景の商標登録、新ブランド「Kurozu Farm」の商標取得、海外出願など、積極的な知財戦略を展開しています。

教訓:自社が名付けた商品名であっても、商標出願をしなければ一般名称化し、権利を取得できなくなります。「良い名前を思いついたら、すぐ出願」が鉄則です。
Global Risk

海外での冒認商標 — 佐賀県「有田焼」事件

海外ブランド保護の問題は、大企業だけの話ではありません。佐賀県の伝統工芸品「有田焼」も、冒認商標の被害に遭っています。

Case — 佐賀の伝統工芸品が標的に

中国での「有田焼」商標登録事件

中国 伝統工芸 冒認出願

2002年11月、中国の個人が「有田焼」を中国で商標出願。2004年11月に中国商標局で登録が認められてしまいました

2010年の上海万博に合わせた「佐賀県産品展」では、佐賀県は自県の誇る伝統工芸品に「有田焼」の名称を使用できない事態に陥りました。苦肉の策として「日本有田産」「ARITA JAPAN」と表記するしかありませんでした。

教訓:海外で商品名や地名が無関係の第三者に商標登録される「冒認出願」の問題は、佐賀県にも実害をもたらしました。海外展開を少しでも考えている場合は、早期の国際出願が不可欠です。
佐賀・北部九州の事業者の皆さまへ:海外に商品を輸出している方、越境ECを考えている方は、主要な輸出先国での商標登録をご検討ください。マドリッド・プロトコル(国際登録制度)を使えば、1つの手続きで複数国に出願できます。詳しくは商標登録ガイドの国際登録のページをご覧ください。
IP Mix

知財ミックス — 複数の権利を組み合わせる

ブランドを守るには、商標権だけに頼るのではなく、複数の知的財産権を組み合わせる「知財ミックス」が効果的です。

権利何を守るか保護期間中小企業での活用度
商標権名前・ロゴ・ブランド名10年(更新で半永久)★★★ 最重要
意匠権商品のデザイン・パッケージ出願から25年★★
著作権イラスト・写真・文章著作者の死後70年★★
特許権技術・製法出願から20年★(業種による)
不正競争防止法周知な名称、商品形態、営業秘密条件付き(形態は3年)★★ 補完的
育成者権植物の新品種登録から25年(樹木は30年)★(農業事業者)

成功事例:男前豆腐店のブランド戦略

京都の男前豆腐店(売上20億円超)は、価格競争が激しい豆腐業界でユニークなネーミング・パッケージ・ウェブサイトを武器にブランドを確立しました。

知財保護では、商標権(「男前豆腐店」「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」等)に加え、意匠権(容器のデザイン)、製法ノウハウの秘密管理を組み合わせています。それでも類似商品の出現は完全には防げず、知財保護の継続的な取り組みが必要であることを示しています。

成功事例:福岡いちご「あまおう」

福岡県が開発したいちご「あまおう」は、品種登録(育成者権)で品種の盗用を排除しつつ、商標登録(「あまおう/甘王」)でブランド名を保護。栽培者を限定して品質を管理し、高価格戦略を実現。知財権を組み合わせたブランド戦略の好例です。

Case Study

ネーミングの落とし穴 — 一般的な言葉でも商標侵害に

Case — 「LOVE」で1600万円

ラブコスメ事件(大阪地裁判決)

大阪 化粧品 一般的な英単語の商標

老舗化粧品メーカー・クラブコスメチックスは、「LOVE」「ラブ」を化粧品分野で商標登録していました。

インターネット通販事業者がこれを知らずに、自社の化粧品ブランドに「Love cosmetic」の名称を使用。裁判所は、「cosmetic」は化粧品の普通名称で識別力がなく、要部(識別の中心となる部分)は「Love」であると判断。原告商標「LOVE」と類似するとして、約1602万円の損害賠償を認容しました。

約1602万円(損害賠償認容額)
教訓:「LOVE」のような一般的な英単語でも、特定の商品分野では有効な商標として保護されます。「cosmetic(化粧品)」のような一般名称を付加しても侵害は免れません。新しいブランド名を決める前に、必ず先行商標の調査を行いましょう
Trade Secret

営業秘密の保護 — レシピ・製法・顧客リストを守る

お店のレシピ、製造ノウハウ、顧客リスト、取引条件…これらは営業秘密として法律で保護される可能性があります。ただし、保護を受けるためには3つの条件を満たす必要があります。

01

秘密管理性

秘密として管理されていること。「マル秘」表示、アクセス制限、パスワード管理等

02

有用性

事業活動に有用であること。客観的に経済的価値がある情報

03

非公知性

公然と知られていないこと。公開されている情報は対象外

特に飲食業界では、従業員が独立する際にレシピや顧客情報を持ち出すケースが問題になります。元祖長浜屋事件のように、元従業員トラブルは商標だけでなく営業秘密の観点からも対策が必要です。

最低限やっておくべきこと:
  • 従業員との秘密保持誓約書を締結する
  • 重要な情報(レシピ、顧客リスト等)に「秘密」の表示をする
  • 情報へのアクセスを必要な人に限定する
  • 取引先との秘密保持契約を締結する
  • 退職時に秘密情報の返還・削除を確認する
Checklist

ブランド保護チェックリスト

あなたのビジネスのブランド保護の現状をチェックしてみましょう。

チェックが少なかった方は、ブランド保護に隙がある可能性があります。すべてを一度に対応する必要はありません。まずは商標登録から、段階的に保護を強化していきましょう。

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