【ブランド保護の重要性~「長浜家」判決~】2013年3月8日
先日のブランド構築セミナーには、企業・自治体の方、学生さんなど30名近くの皆様に参加頂き、ありがとうございました。
グループワークでは仮想事例を踏まえた知財保護の検討をしましたが、実務経験者がうまくグループをリードして、参加者に知財・契約等を活用したブランドの保護の必要性が理解されたのではと思います。
セミナーの内容については、追ってこの知財ブログでも記載をしていきたいと思います。
ところで、中小企業に「ブランド保護」といっても、余りピンと来ない・実感がわかないという方も多いと思います。
今回ご紹介するのは、商標権の取得を含む「ブランド保護」の重要性が理解しやすい判決です。
長浜ラーメン戦争 ~「元祖長浜屋」と2つの「元祖ラーメン長浜家」~
福岡の長浜にある、九州地方(特に福岡)の方なら知らない人はいないラーメン店「元祖長浜屋」。昭和27年より開業し、メニューは「ラーメン」のみ。席につくとすぐに硬さを聞かれ、ラーメンが出てくるという独特の注文の仕組みや、店の雰囲気もあり、観光客等も来ていました。
かくいう自分も、高校生のころに同級生と18切符で福岡まで来て、ここのラーメンを食べたことがあります。当時はまで関東では豚骨は主流でなく(一風堂も進出前?)、味も雰囲気も非常に印象に残りました。
今では店舗は新しくなり、少しだけ移転した場所で営業しています。
「元祖ラーメン長浜家」の新規開業と商標登録
本題に戻ります。
そこから独立をした元従業員(原告)が、2009年12月にその付近に「元祖ラーメン長浜家」(原告長浜家:店主によれば、ながはま「け」と読むようです)をオープンしました。
2010年1月に屋号の商標登録を申請し、6月には登録されています(登録5327392)。
そして、その直後の2010年4月に、「元祖長浜屋」のほぼ真隣に、「元祖ラーメン長浜家」(被告長浜家)がさらにオープンしたのです。見てのとおり、読み方も文字も全く同じです。
報道によると、同店の店長(被告)は、元祖長浜屋で勤務し、上記「長浜家」を開業後、さらに独立したようです。
これにより、三店舗は、近接した地区で、以下のように営業するようになりました。
(2010年7月21日12時04分 読売新聞より引用)
営業差止め等の訴訟提起
このような状況で、「原告長浜家」が、「被告長浜家」に対して、商標権侵害等を理由として提訴をしたのです。
(以下引用)
福岡市中央区の長浜地区にあるラーメン店「元祖ラーメン長浜家(ながはまけ)」が20日、すぐそばの同じ名前の店を相手取り、屋号の使用差し止めと売り上げ減少分の賠償を求める訴訟を福岡地裁に起こした。
この地区では、2軒のほかに「元祖・長浜」という言葉を看板に掲げる店が1軒営業しており、もう1軒が8月にオープンする。よく似た店が乱立する状態に、客も困惑気味だ。
(中略)
今回の訴訟で、先に開店した長浜家側は「同じ屋号や看板を使われて不当に客を奪われ、売り上げが減った。長浜家の屋号は商標登録しており、無断使用できない」と主張。
4月にオープンした店側は「①事前に同じ屋号で営業する了承は得た。②長浜や元祖は一般的名称で誰も独占できない」と反論している。(①②は青山記載)
一方、8月に開店予定の「名物元祖長浜ラーメン長浜屋台」の責任者(32)も元祖長浜屋の元従業員。
3軒のルーツともいえる元祖長浜屋の3代目社長(59)は「のれん分けしたわけではない。同じようなラーメンを提供されるのはいい気分ではないが、決めるのはお客。選んでもらえる努力をするだけ」と話す。
(2010年7月21日12時04分 読売新聞)
やや奇妙なのが、最もブランドを毀損されているのは「元祖長浜屋」であると思えるのですが、「被告長浜家」を訴えたのは、「元祖長浜屋」ではなく、「原告長浜家」です。私も、今回の判決報道を見るまで「長浜屋」が請求しているものと誤解していました。
というのも、上記地図でもあるように、「被告長浜家」は、「元祖長浜屋」の真隣であり、「元祖長浜屋」のブランドの吸引力の恩恵を受ける(混雑あるいは「勘違い」等により「元祖長浜屋」を訪れた客が流れてくる)と言う意味では、(「原告長浜家」はともかく)「被告長浜屋」が「元祖長浜屋」に与える影響はかなり大きいと考えられるためです。
・・・実は、かくいう私も、2年ほど前に福岡地方裁判所の審理の合間に、十数年ぶりに「元祖長浜屋」に行ってみようとしたところ、昔の店舗がなく、この騒動も知る前であったことから「元祖長浜屋」に行くつもりで「被告長浜家」に入ってしまったという苦い(?)経験があります。商標の識別力とか、誤認混同のおそれをまさに「身をもって」体験しました。
(次回へ続く)